「職場に着いた瞬間から腰が不安」——その感覚は、異常ではありません
早番で出勤し、朝の更衣介助から始まり、移乗、入浴介助、食事介助、夜間の体位変換……気づくと腰がじんわりと痛み始めている。夜勤明けにはロッカーで着替えるときにも腰が伸びず、駐車場まで歩くのも一苦労だった——そんな経験はありませんか。
丹波篠山市とその周辺(丹波市・三田市・西脇市)には、特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービスなど多くの介護施設があります。当院にも介護や看護の現場で働かれている方が腰の痛みや重さを抱えてご来院されることが少なくありません。「利用者さんのために頑張っていたら、自分の体が限界になっていた」とおっしゃる方が多く、ご自身の体のことを後回しにしてしまう方が介護職には特に多いと感じています。
本記事では、介護の現場で腰痛が起きやすい理由を解剖学的な仕組みから整理し、職場で明日から意識できる体の使い方と、仕事の前後にできるセルフケアを具体的にご紹介します。
兵庫県丹波篠山市|完全予約制
読むだけでは変わらない痛みは、一度ご相談ください
藤井翔悟治療院 丹波篠山院では、テレビ・医師向けメディアに出演する理学療法士 藤井翔悟の筋膜アプローチで、 痛む場所ではなく“原因の場所”から整えます。初回 2,980円/営業時間 10:00〜17:00(完全予約制)。
この記事で分かること
移乗介助が腰に大きな負担をかける仕組み(解剖学的な理由)
痛みが慢性化しやすい原因——「痛む場所」と「原因の場所」がずれていること
やってはいけない誤った対処(これだけは避けてほしいこと)
今すぐ受診すべき症状(レッドフラッグ)
職場で使えるボディメカニクスの基本と、仕事の前後にできるセルフケア
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の症状への診断・治療方針の提示に代わるものではありません。特に足のしびれ、力の入りにくさ、夜中の痛みなどがある場合は医療機関を優先してご受診ください。
移乗介助のとき、腰では何が起きているか
数字から見る介護職の腰痛リスク
村田伸ら(ヘルスプロモーション理学療法研究、2021年)が12の社会福祉施設の介護職員を対象に調査した研究では、7施設で職員の半数以上が腰痛を訴えており、最も割合の高い施設では85%に達していたと報告されています。Davis KGとKotowski SE(Human Factors、2015年)による132本の研究を網羅したレビューでは、看護・介護職における腰痛の有訴率は33〜90.1%とされており、業種全体のなかでも特にリスクが高い職種であることが示されています。
これほど高い数字になる背景には、介護の仕事が「脊柱にとって最も負荷の大きい動作を繰り返す」という性質があります。
椎間板が最も傷みやすいとき
腰椎(腰の骨)は5つの椎体が縦に積み重なり、それぞれの間に椎間板というクッション組織が挟まっています。椎間板の内部には「髄核(ずいかく)」と呼ばれるゲル状の組織があり、それを「線維輪(せんいりん)」という何重もの繊維の輪が包む構造になっています。
椎間板が最も傷みやすいのは、「前屈(前かがみ)+ねじり+重いものを支える」という3つの条件が同時に重なる状況です。移乗介助——ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレへと利用者様を安全に移す動作——はまさにこの3条件が重なりやすい場面です。
前かがみになるだけでも椎間板の前方にかかる圧力は直立時に比べて大きく増加するとされており、そこにねじりの力が加わると線維輪に偏った負荷がかかります。これが日々繰り返されると、線維輪の内側から少しずつ亀裂が入り、髄核が後方へ押し出されやすくなります。いわゆる「椎間板ヘルニア」の前段階です。
直立時
椎間板に均等な圧力
椎間板
(正常)
神経根
(余裕あり)
前屈+ねじり時
椎間板が偏って圧縮される
髄核が
後方へ突出
神経根を
圧迫
※模式図。実際の解剖と完全には一致しません。
図1|椎間板への圧力の違い——直立時(左)と前屈+ねじりが加わったとき(右)
腸腰筋と多裂筋——介護職が特に疲弊しやすい2つの筋肉
椎間板への負荷だけでなく、腰を支える筋肉の状態も重要です。腰椎を後方から支える深部の筋肉「多裂筋(たれつきん)」は、脊椎の横突起から棘突起にかけて走る小さな筋肉の束で、腰椎を安定させるコルセット役を担っています。多裂筋は痛みを感じると反射的に活動が低下しやすく、使われない期間が続くと萎縮して腰椎への支持力がさらに落ちるという悪循環に入りやすい筋肉です。
一方、股関節の前面から腰椎の前方にかけて走る「腸腰筋(ちょうようきん)」は、前かがみの姿勢が長く続くと縮んだ状態が固定されやすくなります。介護の現場では前屈姿勢になる場面が多く、仕事が終わっても腸腰筋が伸び切れず、「腰が反れない」「立つとお腹が引っ張られる感じ」という症状の一因になることがあります。
多裂筋
(脊椎安定)
腰椎
(L1〜L5)
骨盤
(後面)
痛みで活動低下
→萎縮しやすい
椎間板
(クッション)
後面からみた腰椎と多裂筋の位置(模式図)
図2|腰椎を支える多裂筋——介護職の腰痛で真っ先に疲弊する深部筋
入浴介助がとくに危険な理由
厚生労働省が2013年に19年ぶりに改訂した「職場における腰痛予防対策指針」では、腰痛が最も多く発生するのは入浴介助時の移乗中——特に単独作業中——であることが示されています。浴槽をまたいで中腰でかがんだ状態で、濡れて体重が重く感じられる利用者様を支える状況は、脊柱への負荷という意味で最悪の条件が重なります。同指針では、腰部に著しく負担がかかる移乗介助等では「原則として人力による人の抱え上げは行わせない」とし、リフト等の福祉機器の積極的な使用を推奨しています。
なぜ介護職の腰痛は長引くのか
「痛む場所」と「原因の場所」はずれていることがある
腰の真ん中が痛むからといって、問題がそこだけにあるとは限りません。たとえば、お尻の深部にある「梨状筋(りじょうきん)」が硬くなると、坐骨神経を刺激して腰やお尻に痛みが出ることがあります。移乗介助で股関節を曲げた姿勢を続けると、この梨状筋が持続的な緊張状態に置かれます。本人は「腰が痛い」と感じていても、実際の問題はお尻の深部にある——こうしたケースは当院でも珍しくありません。
また、足首や股関節の可動域が制限されている場合、その代わりを腰で補おうとする動きが生まれます。たとえば、しゃがむ動作で足首が硬い方は腰をより大きく丸めてバランスをとりがちです。こうした「代償動作」が積み重なると、腰にかかる負担が何倍にもなります。
股関節が硬い場合
腰が代わりに動く
腰に
過剰負担
股関節が動く場合
腰への負担が分散
腰は
ニュートラル
股関節の可動域が腰痛に与える影響(模式図)
図3|代償動作のしくみ——股関節が硬いと腰が代わりに過剰に動く
「動かさない」も「動かしすぎ」もよくない
痛みがあると無意識に腰をかばい、動かさないようにしがちです。しかし、腰椎を安定させる多裂筋は使われない期間が続くと萎縮しやすく、筋肉が細くなることで腰椎への支持力がさらに低下するという悪循環が生まれます。一方で、急性期に無理に動かし続けることも炎症を長引かせます。研究では、急性期(痛み始めから72時間程度)を過ぎたあとは、できる範囲で動き続けることが慢性化の予防につながると報告されています。介護職の場合、完全に休むことが難しい状況も多く、「動ける範囲で正しい姿勢を意識し続ける」というアプローチが特に重要になります。
ストレスと睡眠の影響
交替勤務や夜勤が多い介護職では、睡眠の質の低下が問題になることがあります。睡眠不足は痛みへの感受性を高めることが知られており、同じ負担でも「より痛く感じやすい」状態をつくりやすくします。また、精神的なストレスは筋肉の持続的な緊張を招き、筋膜(きんまく)と呼ばれる筋肉を包む膜の滑りを悪くするとも考えられています。腰痛をセルフケアと休養の両面から取り組むことが大切です。
やってはいけないこと
1. 「この1回くらいなら」と無理をする
椎間板のダメージは蓄積します。「ちょっとの移乗だから大丈夫」という判断が重なって、ある朝突然動けなくなる——ぎっくり腰という形で限界が来ることがあります。重いと感じたら声をかけ、2人体制で行うことを躊躇しないでください。職場環境や人手の問題は、ご自身の体を犠牲にして解決するものではありません。
2. 急性期に患部を温める
痛み始めた直後(急性期・おおむね72時間以内)は炎症が起きている状態です。この時期に患部を温めると血流が増えて炎症が悪化する場合があります。急に強くなった腰痛には、まず安静にし、必要であれば患部をタオル越しに10〜15分程度冷やすことを検討してください。慢性期(数週間以上続く鈍い痛み)に入ってからは温めることで血行を促すことが助けになることがあります。
3. 湿布だけで様子を見続ける
湿布は皮膚表面の痛みに作用しますが、椎間板や深部の筋肉の状態に直接届くわけではありません。「湿布を貼ってなんとかやり過ごす」を繰り返すことで、根本的な原因が放置されがちです。痛みが数週間以上続く場合は、体の使い方や原因の場所を見直す必要があると考えてください。
4. 腰だけをぐるぐる激しく回す
腰をねじるように大きく回したり、後ろに激しく反らすといった動作は、すでに負担がかかっている椎間板をさらに傷める可能性があります。後述するような、股関節・お尻を緩める方向からのアプローチが安全です。腰を「伸ばそう」とするより、股関節と胸椎(胸の骨格)をほぐすことが腰の負担を減らす近道になる場合が多くあります。
受診をおすすめするサイン(レッドフラッグ)
以下のいずれかに当てはまる場合は、速やかに整形外科または内科を受診してください。セルフケアや施術より先に、医療機関での検査が優先されます。
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すぐ受診すべきサイン
▶ 足・股間のしびれや感覚の消失
▶ 排尿・排便のコントロールが難しい
▶ 発熱を伴う腰痛
▶ 安静にしても痛む・夜中に痛む
▶ 原因不明の急激な体重減少
▶ 片足に力が入らない・歩けない
上記に当てはまる場合は整形外科・内科を優先
図4|今すぐ受診が必要なレッドフラッグ——これらは施術より医療機関が先
特に「排尿・排便の困難(馬尾症候群の疑い)」は緊急性が高く、早急な受診が必要です。また、がんや感染症など重大な疾患が腰痛の原因となっている場合もあります。「腰が痛い=筋肉の問題」とは限らないことを覚えておいてください。施術の効果には個人差があり、上記のサインがある場合は当院ではなく医療機関を優先してご受診ください。
自分でできること——ボディメカニクスとセルフケア
ボディメカニクスの基本:体の「てこ」を使う
移乗介助のときに腰への負担を減らすための基本原則を「ボディメカニクス」といいます。力学的に理にかなった体の使い方のことで、次の4つを意識してください。
足を広げ、重心を下げる ——足幅を肩幅以上に開き、膝を曲げて重心を低くします。これにより腰椎にかかるテコ的な負担(曲げモーメント)を減らせます。
利用者様に体を近づける ——移乗の対象が遠いほど腰への負担は増します。ベッドのそばに立ち、できるだけ近い位置で作業することが重要です。
ねじらず、足ごと方向を変える ——上体だけをねじりながら利用者様を移動させることは腰への大きな負荷になります。足を動かして体全体で向きを変えましょう。
「抱える」より「寄り添う」 ——利用者様の重心を自分の体幹に引き寄せてから移動を開始すると、力学的な負担を体全体で分散できます。
✕
腰を丸めて遠くを抱える
腰の
過負荷
○
足を広げ近づいて膝で支える
足幅を
広くとる
体を
近づける
図5|ボディメカニクスの基本——腰を曲げて遠くを抱える(左・悪い例)vs 足を広げて近づく(右・良い例)
セルフケア①:お尻の深部(梨状筋)を緩める
椅子に座り、右の足首を左の膝の上に乗せます(いわゆる「4の字」の形)。背筋を伸ばしたまま、体を前に少しだけ傾けると右のお尻の奥にじわっとした感覚を感じます。痛みが出ない範囲で30秒間キープします。左右を変えて繰り返してください。移乗介助後の休憩時間に行うと、股関節まわりの緊張を解きやすくなります。
注意:強い痛みや足へのしびれがある場合は中断し、医療機関を受診してください。1日2〜3回を目安に行います。
セルフケア②:股関節の前側(腸腰筋)を緩める
片膝をついて立ちます(例:右膝が床についた状態で左足が前に出る姿勢)。上体を起こしたまま骨盤を少し前に押し出すように体重を前にかけます。右股関節の前側——お腹の付け根のあたり——が伸びる感覚があればOKです。10〜15秒キープして左右を入れ替えます。介護の仕事では前屈姿勢になる時間が長いため、腸腰筋が短縮した状態になりがちです。このストレッチをこまめに行うことで、筋肉が縮んだまま固まることを防げます。
梨状筋ストレッチ
(4の字・30秒キープ)
ここが
伸びる
腸腰筋ストレッチ
(片膝立ち・10〜15秒)
股関節前面
が伸びる
図6|セルフケアの2種——梨状筋ストレッチ(左)と腸腰筋ストレッチ(右)
リフト・スライディングボードの活用
厚生労働省の2013年改訂指針では、移乗介助に際して「原則として人力による人の抱え上げは行わせない」とし、リフトや移乗ボードなどの福祉用具の積極的な活用を推奨しています。職場に設備がある場合は積極的に使うことを確認しましょう。設備導入の提案も、ご自身の健康を守るうえで正当な申し出です。村田伸ら(2021年)の研究でも、移乗介助用福祉用具の導入割合が高い施設ほど腰痛発生率が低い傾向が示されており、用具の活用が有効な予防策になることが分かっています。
当院の考え方
藤井翔悟治療院 丹波篠山院では、腰が痛むという訴えに対してまず「本当の原因がどこにあるのか」を確かめることを大切にしています。なぜなら、腰の真ん中が痛い場合でも、問題が股関節の硬さにある場合も、足首の可動域制限にある場合も、梨状筋の緊張にある場合もあるからです。
初回来院時には姿勢の観察、関節の動き(可動域)の確認、触診による緊張部位の特定を行います。「ここが硬い」「この動きで腰に負担がかかっている」という原因の場所を特定したうえで、施術の内容をご説明します。施術には理学療法士の藤井翔悟が当院の技術を担います。
施術の効果には個人差があります。長年の慢性的な腰痛は、1回の施術ですべてが解決することはなく、セルフケアや職場での姿勢改善と組み合わせることで少しずつ変化が出てくる場合が多いです。ご自身でできることをお伝えすることも、当院が大切にしていることの一つです。
丹波篠山院の詳しい場所はご予約時にご案内しています。予約ページ からお申し込みいただくか、受付(075-748-1410)にお電話ください。初回2,980円、2回目以降10,000円です(10:00〜17:00・完全予約制)。
丹波篠山で腰痛にお悩みの方へ(腰痛の症状ページ) もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 仕事を続けながら腰痛を改善できますか?
A. 多くの場合、仕事を完全に休むことなく、セルフケアや体の使い方の工夫と組み合わせながら改善していくことが可能です。ただし、足のしびれや力の入りにくさがある場合、夜中も痛みが続く場合は、まず整形外科で画像検査を受けてから判断してください。
Q. コルセットはずっとつけていたほうがいいですか?
A. コルセットは移乗介助など特に負担の大きい作業のときに使うのが基本です。長時間つけたままにすると腰を支える筋肉(特に多裂筋)が使われなくなり、かえって腰が弱くなる可能性があります。当院の経験では、コルセットに頼りすぎず、深部の筋肉を働かせる意識を持つことが長期的には重要だと考えています。
Q. 施術の前に整形外科に行ったほうがいいですか?
A. 痛みが突然強くなった場合、足にしびれがある場合、発熱を伴う場合は整形外科を先に受診してください。慢性的な腰の重さや疲れからくる腰痛であれば、当院へのご相談も選択肢の一つです。判断が難しい場合はまずご連絡いただければ、医療機関への受診をおすすめすべきかどうかを含めてお答えします。
Q. 若いのに腰が痛くなってしまいました。年齢は関係ありますか?
A. 腰痛は年齢より「動作の積み重ね」の影響が大きいとされています。介護職の場合、20〜30代でも腰痛を訴える方が少なくありません。早い時期に体の使い方を見直すことが、長く仕事を続けるうえで重要です。
まとめ
介護の現場での腰痛は「仕方のないこと」ではなく、体の使い方や環境を整えることで軽減できる可能性があります。移乗介助での前屈とねじりの組み合わせが椎間板に大きな負担をかけること、腸腰筋と梨状筋が緊張しやすいこと、そしてボディメカニクスとセルフケアで日々の負担を減らせることをお伝えしました。
足のしびれ、力の入りにくさ、夜中の痛みがある場合はすぐに医療機関をご受診ください。そのほかの腰の不調については、当院へのご相談もお気軽にどうぞ。丹波篠山市・丹波市・三田市など周辺地域からもご来院いただいています。
村田伸, 大山美智江, 坂田栄二「介護職員の腰痛発生率と移乗介助用福祉用具の導入割合との関連」ヘルスプロモーション理学療法研究, 11(3): 117-121, 2021. https://www.jstage.jst.go.jp/article/hppt/11/3/11_117/_article/-char/ja/
Davis KG, Kotowski SE. Prevalence of Musculoskeletal Disorders for Nurses in Hospitals, Long-Term Care Facilities, and Home Health Care: A Comprehensive Review. Human Factors. 2015 Aug;57(5):754-92. PMID: 25899249
厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」2013年改訂. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/youtsuushishin.html
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療など医療行為に代わるものではありません。施術の効果には個人差があります。症状が続く・悪化する場合は医療機関にご相談ください。