膝の痛み

階段の下りで膝が痛む理由|ブレーキをかける筋肉

編集:株式会社藤井翔悟事務所|公開 2026.09.09編集方針

はじめに——「上りは大丈夫なのに、下りになると急に痛い」

丹波篠山では、傾斜のある石段、農道の急な坂、納屋の段差など、平坦でない場所を歩く機会が日常的にあります。「階段を上るときはなんともないのに、下りるときだけ膝が痛む」——こうした経験をお持ちの方は、農作業をされている方やご年配の方を中心に、とても多くいらっしゃいます。

この「下りだけ痛い」という症状は、実は膝の中で何が起きているかをとても正直に教えてくれています。なぜなら、上りと下りでは膝にかかる力の性質がまったく異なるからです。上るときと下りるときとでは、筋肉の使い方も、関節への圧力のかかり方も、根本的に違います。

本記事では、なぜ階段を下りるときに膝が痛むのか、そのしくみを解剖学的に整理し、自分でできる対処法と受診を検討すべきサインをお伝えします。膝の痛みが長引いている方は、丹波篠山で膝の痛みにお悩みの方へのページもあわせてご覧ください。

まずこの記事でわかること

  • 階段の下りで膝が痛む主な理由——膝のお皿(膝蓋骨)の裏側に圧力が集中するしくみ
  • なぜ「上りは大丈夫で下りだけ痛い」のか——筋肉の使い方の根本的な違い
  • 「痛む場所(膝)」と「原因の場所(太もも・股関節)」が違う場合がある、という視点
  • すぐに受診すべきサインと、自分で試せる3つのセルフケア

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療の代わりになるものではありません。症状についての判断は、医師や専門家にご相談ください。

症状の正体——膝蓋骨の裏に圧力が集中する

膝の前面には「膝蓋骨(しつがいこつ)」と呼ばれる小さな骨があります。いわゆる「膝のお皿」で、太もも前面の大腿四頭筋(だいたいしとうきん)という大きな筋肉とつながっています。この膝蓋骨と大腿骨(太ももの骨)の間の関節を「膝蓋大腿関節(しつがいだいたいかんせつ)」といい、膝の屈伸運動のたびに大きな力を受けています。

膝関節の側面構造図 大腿骨 膝蓋骨 脛骨 軟骨(クッション) 膝蓋腱 膝のお皿(膝蓋骨)の裏側と大腿骨の間に軟骨があり、屈伸のたびに力を受ける
図1:膝関節の側面構造。膝蓋骨(お皿)の裏の軟骨が、大腿骨と接触しながら力を吸収する。

2023年に BMC Musculoskeletal Disorders に掲載された研究(Wang ら)では、健康な成人男性9名を対象にコンピューターモデル(有限要素解析)を使って計測した結果、階段を上るときの膝蓋大腿関節の接触面積は平均434mm²、階段を下りるときは平均249mm²であることが報告されています。上りの約6割の面積に、ほぼ同等の体重がかかるということは、単位面積あたりの圧力が高くなることを意味します。

さらに大切なのが大腿四頭筋の使われ方です。平地を歩くとき、大腿四頭筋は「縮みながら力を出す(求心性収縮)」という動き方をします。ところが階段を下りるとき、大腿四頭筋は「伸びながら力を出す(遠心性収縮)」、つまりブレーキをかけながら体重を支えるという、よりきつい使われ方をします。大腿四頭筋の筋力が低下していると、このブレーキが不十分になり、膝蓋骨の裏への圧力がさらに高まります。

膝蓋大腿関節の接触面積:上り vs 下り 上り(昇段) 接触面積 434 mm² 広い面積に力が分散 下り(降段) 接触面積 249 mm² 狭い面積に力が集中
図2:階段の上りと下りでの膝蓋大腿関節の接触面積の違い。下りでは上りの約6割の面積に力が集中する(Wang ら, BMC Musculoskeletal Disorders, 2023)。

なぜ長引くのか——「痛む場所」と「原因の場所」は違う

膝が痛いと「膝そのものが悪い」と思いがちですが、「痛む場所」と「原因の場所」は必ずしも一致しません。当院の経験では、「下りで膝が痛い」という方を丁寧に調べると、次の2つが絡み合っていることが多いと感じています。

① 大腿四頭筋の機能低下

ブレーキ役の筋肉(大腿四頭筋)が弱くなっていると、階段を下りるたびに膝への衝撃が増します。加齢とともに筋肉量は自然に減少し(サルコペニア)、特にご年配の方では注意が必要です。また、長時間の車の運転やデスクワークが続くと、大腿四頭筋の使い方に偏りが生じやすくなります。丹波篠山のような車社会では、この傾向が出やすい環境といえます。

② 股関節の硬さとアライメントの乱れ

膝の動きは股関節と足首の動きに強く影響されます。股関節が硬くなって内旋(足が内向きになる動き)が起きると、膝は内側に倒れる向き(X脚様のアライメント)になりやすく、膝蓋骨が大腿骨の溝から外れる方向に引っ張られます。この偏ったアライメントが、局所的な圧力の集中を招きます。農作業で同じ姿勢を長時間続けたり、丹波盆地の冬の冷えで筋肉が緊張しやすくなったりすることも、股関節の柔軟性に影響することがあります。

こうした「膝の外にある原因」が長引く痛みの背景にあることを理解することが、対処の方向を考えるうえで重要な出発点になります。表面の症状(膝が痛い)だけを見るのではなく、体全体の動き方や使い方の偏りに目を向けることが、糸口を見つける手がかりになります。股関節の痛みが同時にある方も、お気軽にご相談ください。

大腿四頭筋の使われ方:上り(求心性)vs 下り(遠心性) 上り:求心性収縮 筋肉が縮む 縮みながら力を出す (比較的負担が少ない) ↑ 膝を伸ばして前進 下り:遠心性収縮 筋肉が伸びながら ブレーキをかける 伸びながら力を出す (筋肉への負担が大きい) ↓ 体重を支えながら降段
図3:上りと下りでの大腿四頭筋の働き方の違い。下りでは「伸びながら力を出す」遠心性収縮が求められ、筋肉への負荷が大きい。

ハモンドらの研究(2025年、BMJ Open 誌)では、膝蓋大腿関節の変形性関節症がある66名を対象に、階段を下りる動作を動作解析と MRI で詳細に計測しました。その結果、「階段を下りるときの膝の動き方の乱れ」が、膝の痛みや軟骨のダメージと強く関連していることが示されています。特に男女で動き方のパターンが異なるという知見も得られており、個別の動作の評価が重要であることを示唆しています。膝のアライメントや動き方のくせが長期的な問題を招くことがある、と研究は示しているのです。

「痛む場所」と「原因の場所」は違う 痛む場所(症状) (膝蓋骨の裏) ここが痛む ← 症状の出口 原因の場所(根本) 大腿四頭筋 股関節まわり ここに問題 ← 原因の入口
図4:「痛む場所」と「原因の場所」は必ずしも同じではない。下りの膝痛では、大腿四頭筋や股関節に根本原因があることが多い。

やってはいけないこと

① 「痛みを我慢して階段を使い続ける」

膝蓋大腿関節に繰り返し過剰な圧力が加わると、軟骨に慢性的な刺激が生じます。痛みを無視して同じ動作を続けることで、炎症が長引いたり症状が悪化したりすることがあります。特に農作業で傾斜地を何度も往復する場合は注意が必要です。

② 「急に激しい運動を始める」

「膝に良いと聞いたから」と、痛みがある状態で急に負荷の高いウォーキングや筋トレを始めるのは逆効果になることがあります。炎症が落ち着いた段階から、徐々に負荷を上げていくことが大切です。

③ 「湿布だけで様子を見続ける」

湿布は炎症や痛みを和らげる補助的な手段として有用ですが、「なぜ痛みが出ているか」の原因には対処できません。湿布で痛みが一時的に和らいでも、筋力低下やアライメントの問題が続く限り、同じ状況が繰り返されます。

④ 「膝の周りを強くもむ」

急性期や炎症がある時期に膝周辺を強くマッサージすると、炎症を悪化させることがあります。腫れや熱感がある場合は、もむよりも安静と冷却(15〜20分間)が先決です。

受診をおすすめするサイン(レッドフラッグ)

以下のいずれかに当てはまる場合は、自己対処ではなく医療機関への受診を優先してください。

  • 膝が急に大きく腫れた、または熱を持っている——関節内の炎症や感染症の可能性があります
  • 体重をかけるとがまんできないほど痛い——骨折や靱帯損傷が疑われます
  • 膝が「ロック」して伸ばせない・曲げられない——半月板損傷の可能性があります
  • 就寝中や安静時にも膝が痛む——関節リウマチや感染性関節炎などの可能性があります
  • 膝の痛みとともに体重が急に減った・発熱が続く——全身的な疾患のサインである可能性があります
  • 転倒や事故の直後から急に痛くなった——骨折・靱帯損傷を除外する必要があります

上記に当てはまらない場合でも、2〜3週間以上続く膝の痛みは一度整形外科を受診し、X線やMRIで状態を確認することをおすすめします。

自分でできること——3つのアプローチ

ここでは、症状が軽度で「受診をおすすめするサイン」に当てはまらない方向けに、自分で試せることを紹介します。効果には個人差があります。痛みが続く・悪化する場合は、無理せず専門家にご相談ください。

膝のアライメント:正しい例 vs 崩れた例 良い例:膝がつま先の方向 膝とつま先が同じ方向 → 圧力が均等に分散 崩れた例:膝が内側へ倒れる 膝が内側へ倒れる(X脚様) → 膝蓋骨に偏った圧力
図5:膝のアライメントの正しい例と崩れた例。膝が内側に倒れると膝蓋骨に偏った圧力がかかりやすくなる。

① 股関節まわりのストレッチ(梨状筋ストレッチ)

股関節が硬くなると膝に余分な負担がかかりやすくなります。以下のストレッチを1日1〜2回、痛みが出ない範囲で行ってください。

  1. 椅子に深く腰かけ、背筋を伸ばします
  2. 右足首を左ひざの上に乗せます(数字の「4」の字になるように)
  3. 上体をゆっくり前に倒し、右のお尻から太もも外側が伸びるのを感じながら20〜30秒キープ
  4. 反対側も同様に行います

痛みが出た場合はすぐに中止してください。

② 壁スクワット(大腿四頭筋の筋力訓練)

大腿四頭筋を安全に鍛える方法として、壁スクワット(ウォールスクワット)があります。

  1. 壁を背に、足を壁から30〜40cm離して立ちます
  2. 背中を壁につけたまま、ゆっくりと膝を曲げていきます(痛みが出ない範囲で、膝が90度以上にならないように)
  3. 5〜10秒キープしてからゆっくり戻します
  4. 5〜10回を1セットとして、1日1〜2セットから始めます

このとき、膝がつま先より前に出ない・膝が内側に倒れないよう意識してください。階段を下りるときの「ブレーキをかける動作」を安全な範囲で練習することになります。

③ 降段の動作を工夫する

痛みがある時期は、「健側(痛みのない方の足)を先に下の段に降ろし、痛い方の足はあとからつける」という順番で降りると、痛い側の膝への負担を分散させることができます。また、手すりを積極的に活用することで脚への体重負担が減ります。「手すりを使うのは恥ずかしい」という遠慮は不要です。

当院の考え方

藤井翔悟治療院 丹波篠山院では、「痛む場所(膝)」を直接揉んだり押したりするのではなく、「なぜその場所に負担がかかっているか」を検査で明らかにすることを優先しています。

階段の下りで膝が痛む場合、当院では以下のような流れで確認します。

  1. 動作の観察——立つ・歩く・片脚立ちなどを見て、膝・股関節・足首のアライメントを確認します
  2. 筋肉の機能評価——大腿四頭筋、殿筋群(お尻の筋肉)、股関節まわりが実際にどう機能しているかを確認します
  3. 筋膜の状態の確認——硬くなっている筋膜が膝蓋骨の動きを制限していないかを確認します

その結果に基づいて、膝に余分な圧力をかけている原因(大腿四頭筋の機能低下、股関節の硬さ、筋膜の問題など)に対してアプローチします。施術の効果には個人差があります。変形性膝関節症の程度が進んでいる場合や、レッドフラッグがある場合は、整形外科への受診を優先してお伝えするようにしています。

当院は完全予約制です。詳しい場所はご予約時にご案内します。お問い合わせは予約・お問い合わせページから、または電話(075-748-1410)でお願いします。初回2,980円・2回目以降10,000円(詳しくは料金・流れをご覧ください)。

よくある質問

Q1. 上りは大丈夫で下りだけ痛いのに、手術が必要ですか?

A. 「下りだけ痛い」という段階では、多くの場合まず保存療法(手術以外の方法)が検討されます。手術の必要性は画像検査と医師の診断なしに判断できません。まずは整形外科を受診し、状態を確認することをおすすめします。

Q2. 変形性膝関節症と診断されました。もう階段は使わない方がよいですか?

A. 変形性膝関節症でも、完全に動かないでいると大腿四頭筋が弱まり、かえって膝への負担が増える場合があります。一般的には「痛みが出ない範囲で、手すりを使いながら継続する」選択が多くの場合は適切とされています。手すりを使い、健側から降りるという工夫だけで痛みが大きく変わる場合もあります。ただし、個人の状態や病期によって異なるため、主治医の指示に必ず従ってください。

Q3. 若いころからX脚(内股)と言われています。関係ありますか?

A. 関係している可能性があります。X脚(膝外反)では膝蓋骨が外側に引っ張られやすく、膝蓋大腿関節に偏った圧力がかかることがあります。股関節まわりの筋肉(大臀筋・中臀筋など)を適切に機能させることで、アライメントが改善する例があります。ただし個人差があります。

Q4. 整体に行けば改善しますか?

A. 「改善するかどうか」は検査してみないと判断できません。「痛む場所(膝)」と「原因の場所(大腿四頭筋・股関節)」のどこに問題があるかによって、アプローチが変わります。変形性膝関節症の程度が進んでいる場合には、整形外科での治療(注射・手術など)が適している場合もあります。当院では、自院での対応が難しいと判断した場合は正直にお伝えします。

まとめと参考文献

階段の下りで膝が痛む主な理由は、大腿四頭筋が「伸びながらブレーキをかける(遠心性収縮)」という特殊な使われ方をするためです。このとき膝蓋大腿関節の接触面積は上りより小さく(研究では平均249mm²)、圧力が局所に集中しやすくなります。また、股関節の硬さや大腿四頭筋の機能低下といった「膝の外の原因」が長引く痛みにつながっている場合があります。

急な腫れ・安静時の痛みなど「レッドフラッグ」がある場合は速やかに整形外科を受診し、そうでない場合は股関節のストレッチ・壁スクワット・降段の工夫を試しながら、症状が続くようであれば専門家にご相談ください。丹波篠山・丹波市・三田市近隣にお住まいで膝の痛みでお悩みの方は、当院でも状態の確認をお受けしています。

セルフケア3ステップ Step 1 股関節ストレッチ 梨状筋・腸腰筋 20〜30秒 × 左右 Step 2 壁スクワット 大腿四頭筋の強化 5〜10回 × 1〜2セット Step 3 降段の工夫 健側から先に降りる 手すりを積極活用 痛みが続く・悪化する場合は無理せず専門家にご相談ください
図6:自分でできるセルフケア3ステップ。股関節のストレッチ→大腿四頭筋の強化→降段の工夫の順で取り組む。
  1. Wang X, Liu H, Dong Z, et al. Contact area and pressure changes of patellofemoral joint during stair ascent and stair descent. BMC Musculoskeletal Disorders. 2023;24(1):763. doi:10.1186/s12891-023-06882-0
  2. Hammond E, Johnson J, Haley T, et al. Predictors of pain and cartilage damage in patellofemoral joint osteoarthritis: stair descent knee kinematics and kinetics. BMJ Open. 2025. PMC12519704.

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療など医療行為に代わるものではありません。施術の効果には個人差があります。症状が続く・悪化する場合は医療機関にご相談ください。

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